*ここまでの話* マイクがこれだけ奇天烈/キテレツな人間になったのは、戦争に負けたという貧困の時代背景がある。けれど、それに加えてマイクの父、俺の祖父さんのキャラから受けた影響が当然大きい。祖父さんは、大借金をマイクに残してこの世を去った。マイクはその多額の借金を返すために朝から翌朝まで働きまくった。激務に耐える俺の親爺、マイクのブルースのイントロは、ヤクザな祖父さんから受け継いだマイナス遺産から始まった。祖父さんにいろいろ被らされてたんだもんなあ...あの祖父さんのスットコドッコイが!
それでもマイクにとっては自分の父親だからか、不思議なほど祖父さんをけなすことがなかった。質実剛健で豪放磊落だと、自慢げに俺に語っていたものだ。もちろんマイクは日本語苦手なんで、こんな漢字四字熟語なんか使わず、祖父さんが馬にムチを打つ姿を、エキサイティングにジェスチャー付きで叫んでいた。
『ハイヤー、ハイヤー、
スゴかったっつぅお〜、ウチの父ちゃんは〜。
手綱なしで、鞍無しで、
馬に乗って行きよったけんねえ。』
「たづな無かったら落馬やろ。
どこ握って馬に乗るわけ…?」
『バ〜カ!…タテガミに決まっとっやっか!
タテガミば、両手で、こう持つっさぁ...』
ってなかんじ。力強い身振り手振り。それだけで、“尊敬される男のサマ”すべてを語った。やっぱ、漢字がいっぱいの本を引用して体裁よく説教するより、アクション付き武勇伝の方が早か。これぞ教育か!?
*祖父さんは<
銃剣道>という武道の達人で、天皇に捧げる天覧試合に出場したほどの腕前だった、

とか。
*試合で相手のノドを突いて、相手を殺してしまった、

とか。
*我が家の<床の間>に飾ってある、あの銃剣の先っぽに付いている斑点は、その時の返り血だ、

とか。
*ついでに言うと、試合で相手を殺しても罪にはならんとぞ、ムフッ・・・・・、

とか。
そういう強面伝説ばかりが、孫の俺には引き継がれていった。いやもとい。孫の俺の耳に、繰り返し叩き込まれた。
だって俺の祖父さんに対する思い出も、たった一つ。孫の俺の目前で、バケツにひたすら血を吐いている記憶だけ。それだけだ。次に会った時にはあの世に行った瞬間だったし。<床の間>の遺影も、笑っているようで怒っている。微妙に怖くて憎たらしい。いつもその遺影の下に立つのが怖かった。そこに長く立っていると死ぬと思った。兄弟の間でも、肝試しや罰ゲーム扱い。祖父さんの遺影の下に何分立てるか?...というありさまだった。
マイクにとっても、きっとイヤな存在だったはず。それでも、祖父さんがマイクからは圧倒的に肯定されていたのは、父権を絶対とする当時の日本の教育の浸透力のせいなのだろうよ。
ところが最近、マイクの態度が変わった。あんな祖父さんのせいで、嫁として苦労が絶えなかったおふくろから、オモシロおかしく語られる祖父さんのデタラメぶりを、否定しなくなった。さらには部分的に解説&フォローするまでになった。固く閉めていた否定のフタを開けちゃったのだ。なぜなら、今となっては珍しい豪快な伝説に、俺たち若者が大笑いするからだ。特に姉の娘=中学生の女の子に大ウケするもんだから、“良いんじゃない!本やTVよりおもしろいマイクさんの話”、となったみたいでさ。孫が笑えば世の中変わるということだ。
その結果、祖父さんの巌(イワオ)さんは、実は職業が何一つ続かなかったヤクザな人生だったと、息子のマイクさんも認めるようになったわけだ。
そういえば、俺でもつい先日知った、驚きの初耳話がコレ。

♪お酒が大好きだったお祖父さんはある時期、酒屋をやっておりました。が、お祖父さんはお酒が大好きなあまり、在庫商品のお酒を自分で全部飲んでしまったのです。ヒエーッ、お祖父さんは、売るお酒がなくなってしまい、とうとうお店を潰してしまったのでしたぁ〜、ブハハハハハ...♪

〜この話は子供からお年寄りまで一家大爆笑。その頃は地獄だったろうに、80歳ぐらいになると爆笑できるもんなんだ。人生そんなもんらしい。こんな爆笑伝説の人物である祖父さんが作った重くておもろい借金。マイクは次男だったが、長男が早くに他界したため、祖父さんの借金を全部背負わされた。その返済で働き尽くしだった。だから、マイクは俺の親だが、息子の俺をサポートしたがらない。
『オレはオヤジで苦労した。
だからオマエにオレで苦労させない。
オマエはそれだけで幸せものだ。
だからオレはオマエにはもう十分だ。』
...ッカッコイイね。って言うしかないじゃん、コレ。ランボーみたいな人やね。この先、“山ではオレが法律だ!”とか、“無駄に生きるか何かのために死ぬか、お前が決めろ!”とか言い出すぜきっと。ねえ、マイクさんたらよお。...と、酒をつぐ右手を見つめていると、珍しくマイクが俺に気遣いの言葉をかけた。
『おい、オマエ仕事の調子はどお?』
「長崎市は不正だらけやけんね、ひどかっちゃん。」
『そや、ヤルねえ...』
「どっちがっ?・・・・・・・・」
『楽天イーグルスは勝つようになったもんねえ...
野村監督いいとこヤッテルじゃん、最近は。』
「・・・・・・・・」
最後は必ず答えられない言葉を放たれる。はぐらかしてるのではなく、一般人よりも早く興味がなくなる...たぶんこの男、それだけだ。そうでなければ、大詩人。...いや、そいはありえんちゃん。
*つづく*
テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2008/05/29(木) 11:02:29|
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*ここまでの話* 仲居さんが部屋を出たら、俺はマイクに進言した。。

「オヤジ、風呂に入れば!お湯がトロッとしてヨカよ。」
『オレ温泉に興味ないから。
オマエが風呂に入ってやれば。』
「いやいやいや、風呂のためじゃなくて
オヤジのために入らんね、温泉。
ね、お金払うんで入ってくれえ。」
『オマエ、バカじゃなかとか!
入りたくないオレになぜカネ払うわけ?!』
「いや、旅館に払うわけよ。」
『入らないオレのために旅館に払うの?』
「ま、入った方がいいけど入らなくても払うさ。」
『オマエ贅沢やねえ。最近のワッカもんはゼイタッカ〜。』
「いやいや、オレが贅沢じゃなくてさ、
今日はおふくろの喜寿で...」
と言いかけてるときには、マイクはもうこの話には興味がなくなっていて、テーブルに置いてある札が気になっていた。そのフダに書いてある文字を、たどたどしく読み始めた。

『ゆつくり、たのしいので、にゅうしつ、しないで・・・
どゆ意味?...ここは、お湯ば作いよっとか?』
「お湯から作る?...ええー?...」。

その札には<ゆっくりしたいので入室しないでください。>と書いてあった。ゆっくりシタイ?いっぱいシタイ?あんれまあエロイ。いやチョットいやらしいが、老人マイクはどうもソコを突いてるワケじゃない。日本語を読めないだけだ。湯作り楽しい?なんていくらなんでもお湯を作るか!?って、アンタ神様かぁ〜......
「ちがうちがう。ほらビジネスホテルのドアノブに
下げるヤツあるやん。...掃除のおばちゃんに、
まだ寝てるので起こすな!ってメッセージするフダ。」
『はっ?...』
「DON'T DISTURB ME.
って書いてあるやん、プラスチックのボードにさ...」
『YES, I GOT IT.(アイガリ)!』
なんやわかっとるやんけ、コラ。アイガリ爺さんが!......年をとるにつれ、ほんとマイクは英語でしか通じなくなっていく。こんな時、俺は感じるのだった。<マイクは、日本魂を奪われた佐世保の犠牲者。そのひとりである。>……と。
「おい、テレビ付けろ!相撲の始まっとる。」
あれっ?...やっぱ犠牲者撤回です!
*つづく*
テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2008/04/22(火) 11:02:22|
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*ここまでの話* 工業高校出身でありながら、マイクが英語ペラペラなのは、外人バーでマネージャーをやっていたからだ。なんせマイクの父親、つまり俺の祖父さんは、多額の借金を残してこの世を去った。だからマイクは昼の仕事の後に、夜は外人バーで働かなければ借金を返せず、その結果、英語ペラペラになったらしい。その流れで米海軍佐世保基地にスライドし、いつの間にか爆発物のボスになり、その結果、日本語が苦手になっていた。

爆発物が日本語を苦手にした、という流れはエブリ殿には理解しがたいだろうが、この説明をするとかなり長い上しかも危険。だからここでは省略して、それより温泉に行こう。

マイクのワイフ、俺のおふくろの喜寿の祝いに便乗して、嬉野温泉に行ったマイク。いつものカップ酒が飲めない洒落た旅館に、居心地悪そう。部屋の世話をする仲居さんが、お茶を入れに来た。嬉野銘茶を入れながら...
「嬉野にはよく来られるんですかあ?」
さてどう答える?...温泉なんかしょっちゅう来てると見栄を張るのか...滅多に来ませんと正直に答えるのか...それでサービスがよくなるのか舐められるのか...これは、誰が答えるんだろう。と一瞬戸惑った隙に、マイクがチャチャッと答えた。
『う〜ん、若い頃はよく来てたねえ。』
けっ、外面のいいマイクは、言葉遣いを変えて答えていた。おいコラもう一回言ってみろ。いつもの調子でよ〜。
『う〜ん、わっか頃は、しょっちゅう来よったね!』
窓の外を見ながら噛みしめるように答えるマイク。おふくろの前で、この答えの微妙さ加減が与えるインパクトは、俺には大きかった。なんせ窓の外、マイクの視線の向こうにあったのは、ハーレムという名のソープランドだった。オヤジの時代には

トルコ風呂と言われていたっけ。温泉街の意味が今とは違う時代がきっとあったはず。
風俗と温泉街は背中合わせの暗号に違いなかった時代がよみがえる中で、仲居さんの質問「嬉野にはよく来られるんですか?」それが、こだましているマイクの脳内事変。佐世保弁ではない、よそ行きのカッコつけた答え方。咄嗟の標準語『う〜ん、若い頃はよく来てたねえ。』。そのウラに潜むのは、トルコ風呂ハーレムの記憶か。
マイクは少しの間、外をボーッと見つめていた。すると、切れ味鋭いいつもの発音で、ソープランドの看板を呼んでしまった。
『Harem!』
「ハーレム。」
俺はフォローを入れるつもりで即座に連呼した。間が持たないと勝手に思いこんで、さらに続けてしゃべり倒した。
「これ、ニューヨークのHarlemとは、
意味違うもんね。綴り違うし。
イスラム圏のHaremやもんね。」
『オマエ細かかっさ。ママさん似やね。』
マイクは俺のフォローをなぎ倒した。とその時、おふくろが、

ズルズルズル...っとお茶をすすって、口を開いた。
「お茶のおいしかあ......」
おふくろの感嘆っぷり。喜寿とお茶。達成感。幸せそうなお茶時間。しかし、そんなグッドタイムのいい空気ですらマイクは読まなかった。空気は吸うものさ一筋の男道。嬉野銘茶が施した絶妙の“間”のありがたみに気を遣うことなく、マイクはバッサリと言い切ってしまった。それはアメリカが日本を負かしたかのように突然だった...
『ここ嬉野やもんね。』
ありがとうございますう〜。ではごゆっくり〜。仲居さんはタタミにお呪いをかけるかのように深々と頭を下げて、今がタイミングだと言わんばかりに素早く、微妙部屋から退場した。
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2008/04/12(土) 11:02:02|
- マイクのブルース
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*ここまでの話* マイクは、日本人だけれど日本語が苦手だ。もちろん本人は苦手だと思っていないが、俺含む周囲の普通の人々からみると、日本語が通じないミョウチクリンな脳をしている。父親なので敬意を払って、敢えてバカだとは言わない。80近い年齢のせいでもない。今も英語はペラペラだし頭は悪くなさげなので、日本人としてチョット何かが足りないレアなヒト?、ぐらいにしとくか。そう、マイクは変な日本人なのだ。
『おい、DVってなんや?』
「家庭内暴力さ。」
『勝てない暴力?...そがんと止めとけ。
大東亜戦争やっか。オマエ負けイクサはするなよ。』
「勝てないじゃなくて、家庭内暴力。オヤジのことさ。」
『......DVってあれやろ、音楽のなるとやろ。』
「あ、そいはDVD。音楽もなるし、映画も見れる。」
『YES!それそれ。』
「詳しく言うと。音楽だけなるのはCD。
音楽も聞けて映像も見れるのがDVDね。」
『オマエ細かいっさ。ママさん似やね。』
「いやいや、俺じゃなくて電気屋がね。」
『で、DVとDVDは違うわけ?』
「だけん、DVは、家庭内暴力。オヤジのことさ。」
『そい英語や?』
「ドメスティック・バイオレンス!」
『Yah, Domestic Violence !』
やけに発音良くオウム返しされるので、その態度と切れの良さが憎たらしい。...と思いつつ、英語略語の多い世の中は年寄りに面倒だなあ〜と、ここは思いやりの一言をかけて退散することにした。
「DVD覚え立てに、DVの登場で、ややこしかねえ。
違いはわかった?...OK?」
『アイガリッ!(I Got It !)』
「おお!..アイガリ爺さん、俺そろそろ帰るけん。」
『どこに...?』
「長崎にさあ...。」
『風呂入らんとぉ?』
「なんでぇいまから......もう帰るけん。」
『KYってなんや...?最近言うやろ、ね、KYってなんや。』
「キンタマ・イエロー...はっはっは、サムライのことさ。」
『リアリィ...?』
「ごめん、ウソウソ。最近のガキがいうには、
空気読めないヒトのことだってよ。オヤジのことさ。」
『はぁ?...なんで空気を読むの?......ねえ。
オマエ細かかっさ。ママさん似やね。』
「いや、俺は空気読ませるほうけど...」
『What?...
空気は吸うもんやろ!......ッバカが!
よっそわしか。』
「そう、っそわしかねえ。ガキどもがねえ...」
『ユーガリッ?』
「アイガリッ!」
『オマエ、風呂入って風邪ひくなよ。』
「だけん、入らんてさ!もう帰るって!」
『どこにや……』
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2008/04/05(土) 11:02:50|
- マイクのブルース
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*ここまでの話* マイクは、今でこそ80歳ぐらいだと思うが、周囲には70歳になったぐらいから『もう俺も80ばい...』と、感慨深く、何度も繰り返し宣伝してきたので、ホントはいくつかわからなくなってしまった。数年前は、血管がつまったりして手術のために入退院が集中したが、最近は安定している。その証拠に、朝から晩まで、酒を飲んでは寝るを繰り返す。毎日五合から一升、酒を飲むマイク。
呑むという情緒がなく、飲む。しかもあまり食べず、水を飲むように酒を飲む。俺は長男としての義務から基本的には、飲みすぎを注意するが、感心もしている。80歳ぐらいで、これほど毎日酒を飲むだけの、無意味な過ごし方をしてるのも、ある意味ロック!…たいしたもんだ。内蔵とりわけ肝臓が丈夫な証拠でもある。だから、チョット油断して、マイクに向かって褒めてみた。
「オヤジもたいしたもんやね、
その年でそれだけ酒を飲めるなんて。おらんよ。
他の年寄りじゃ聞いたことない。俺でも飲めんよ。」
するとマイクは、ニヤリとして答えた。
『そうね。やっぱりミーは...
ボクは毎日、体に気を遣ってるし、
健康に気をつけてるからなんじゃないのお...。』
オマエ殺すぞ!と即座に思ったが、このパーティー好きのアメリカかぶれの男の、ユーモアなんだか、まんまなんだか、いまだにわからない...そういう自分に酔ってる感じの返答には、結局爆笑してしまう。バカ受けしてしまう。どんな芸人よりおもしろい。
気を遣っているのは、周囲の家族であり、健康に気を付けてるオトナは、それだけの量の酒を、毎日飲まない。ゲラゲラ笑っている俺のスキを突いて、マイクは被ってきた。
『ねえねえ、俺もう90歳よ...。』
長年のUSネイビー漬け=米海軍佐世保基地勤務でアピール力を培ったマイクのその口から、次のパーティーへの宣伝が始まっている。77歳で喜寿を祝ってパーティーをやった。記念日には酒が集まる。88歳が米寿というパーティーのチャンスだと、マイクは肝臓で感づいている。マイクは脳で生きていない。肝臓で生きている。今日も明日も90歳のその日も、肝臓が脈を打つ。
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2008/02/24(日) 10:59:54|
- マイクのブルース
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*ここまでの話* 俺のオヤジがマイクと呼ばれるワケは、一言で言うと、<戦争に負けたのが日本だから>だった。シゲルという名前がありながら、その名の意味に関係なく、アメリカ兵にとって呼びやすいニックネームで呼ばれる。犬に名前を付けるみたいな行為だ。ま、占領した日本の佐世保基地のスタッフは、アメリカにとって犬かもね。
仮にアメリカ兵がオヤジに対して愛着があったにせよ、それならシゲルの意味とか聞いてさあ、なるほど<繁>という意味かあ・・・それなら、<much>とか<rich>とかにするとかさあ。あるだろうよ、なんてことを言うと、オヤジは一笑する。
『オマエ細かかっさ。
アメリカ人がそこまで細やかに考えるもんか!
オマエ日本人やなあ・・・。』
「日本人やもん。」
『オマエみたいに細かく考えるけん、
日本はアメリカに負けたっさ。』
「えっ?・・・俺のせい?・・・」
『そう、オマエのせい。』
「えっ?歴史逆じゃん。歴史があべこべやっか。」
『ほらまた・・・細かく考える。
歴史とか言うて・・・早よ、酒買いに行けさ。』
シラフではいられない、マイクのブルースが、歴史をグデングデンに酔わせてしまっている。何の苛立ちからか、親爺はスクッと立ち上がり、俺の目の前に、力強い右手で、Vサインを付きだした。
ええっ、Vサイン?・・・親爺は今いったい、何に勝ったのか!?ええっ?・・・そして、親爺はVサインを付きだしたまま、俺をじっと見て叫んだ。
『二本。月桂冠二本、買うてきて。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「
六十餘洲(ろくじゅうよしゅう)じゃなくて、
なんで月桂冠ね?」
『オマエ、戦争に負けたけんカネ持たんやろ。
六十餘洲は高かっさ。月桂冠にしとってやる。』
親爺はさらに踏み込んで、俺の目の至近距離に寸止め、グイッと、Vサインを突きつけた。
『二本ね。』
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2007/11/10(土) 13:35:38|
- マイクのブルース
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*ここまでの話* 俺の親爺の名前はシゲル。なのに、なぜ俺のオヤジは、佐世保のアメリカ兵たちに、マイクと呼ばれてきたのか。何十年も気になっていながら、聞いたことがなかったので、とうとう本当の由来を聞くことにした!
とはいえ、四六時中酔っぱらってるこの男の、ロレツの回る時間は、一日10分ぐらい。俺はそのシラフの瞬間に、バッタリ実家に帰ることができるのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『おう、今日はなんや?あ、ちょうど今切れとっさ。酒、買ってこい。』と一升瓶を持ち上げた。
「オヤジさあ、昔から、
マイクさん、マイクさんって呼ばれるやん。
米兵からも日本人からも、マイクさん!って。」
『おう。そいがなんや!』
「なんでマイクなわけ?マイクの由来は?」
『おう。べつに...
スティーヴでもジェームスでも良かったっさ!
連中は、アタマ悪かけん、
呼びやすかったとやろ、マイクが。』
「そんだけ?」
『そんだけ。・・・・戦争に負けたとは日本やけんね。
好きなように呼ぶんじゃないの。
アメ公が呼びやすいように。』
「そんだけ?」
『早う、酒買いに行けさ。』
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2007/11/07(水) 16:50:16|
- マイクのブルース
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*ここまでの話* 老人MCマイクは、今日もテレビの前で、日本酒に酔いメロメロを味わいながら、来る日も来る日も大相撲の、次の場所を待っている。
と前回、わびしく締めくくって、この文章だけ、<文学の味がする、
松翁軒。>と、さっき思った。
芥川龍之介が、カステラをそんなに好きだったからって、カステラから文学の味がすっかって!あのTVCM見たら、芥川龍之介の胃潰瘍の原因はカステラだったのでは?つまり、芥川龍之介の自殺の原因の大元はカステラだったのでは?・・・と、カステラを遠ざけたくなる。カステラかわいいそう。
あるいは、芥川さんのように、やさぐれカッコイイ風貌になるために?・・・と、カステラを一斤丸ごとかじらなければ文学は浮かばな〜い、と思いこむ、糖尿秒読み文学青年を心配したくなる。けどカステラ食べたくなる。
俺だってオメエ、アレだよ。昔はこれでも、ヨウカンが好きでさ。ヨウカンを一本、バナナのように剥いて剥いて食べてたさ。狩須羊羹と言われてたぜ。なんだか陶芸家か日本画家みたいだろ、ホホホ。
なんつったて、ロシア人?が紅茶にジャムを混ぜるように、コーヒーにヨウカンを溶かして、たしなんでいたものよ。そのメニューの名は、<ようちゃん>と名付けてたなあ。友達が遊びに来たら「はい、<ようちゃん>で〜す。どうぞ〜。」って、接客してたなあ。いい奴だったなあ、あの頃オレ。
アレっ、話がそれてる間に、名古屋場所が始まってる。しかも朝青龍が初日に破れてる。MCマイクは、テレビの前にいるのかなあ。電話してみよう。
・・・・・・・・・・。。・・。。・・・・・・
「あ、親爺?どうよ、名古屋場所。朝青龍、
初日から黒星。あれ、どうよ。」
『おかしかねえ、負ける相手じゃなかとにねえ。・・・・
あいどんも、仕事やけんねえ。・・・・
あいどんも、テキトーにしよっとやろ!』
「仕事やけん?テキトーにしよる?ってなんね?
八百長に見えたってことね?」
『うん?ワッツ?・・・・・・アイドンノー!』
こらっ、そこで、英語使うな。MCマイクは、米軍勤務が40年以上なんで、宮沢元総理のように、日本の老人顔じゃんと油断すると、意表をついて英語を発する。言葉が出てこないときは、感情的に英語を発するクセがある。それもテキトーに。
I Don't Know あいどん。
***********************************************************************
注) <あいどん>とは、
<あの人たち>、又は<彼ら>、を意味する
長崎国・佐世保弁。英語では、YOU or THEY。
補) 相手がなんたるかを認知させる、
相手の存在証明のことを、
<あいどんてぃてぃ>という。・・・・・・これウソッ!
*つづく*テーマ:伝説の人物 - ジャンル:小説・文学
- 2007/07/10(火) 19:31:06|
- マイクのブルース
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